「フォークある?」「あるよ」

昨日、僕、嫁、僕の両親というメンツで某有名イタリアンレストランにて夕食を食べた。

パスタを頼んだ両親にはフォークを渡し、ミラノ風ドリアを頼んだ僕にはスプーンを渡し、小エビのサラダを取り分け、女子力を遺憾なく発揮する嫁だった。できる女である。

小エビのサラダは、その小エビの関係上スプーンで取り分けていた。なるほど賢い。

先述の通りミラノ風ドリアを注文した僕が渡されたのはスプーンのみで、取り分けられたサラダを食べるにはスプーンだけ。ちと食べにくいか。

「ねえ、フォークある?」と嫁に尋ねる。

「あるよー」

答える嫁。しかし、フォークを渡してもらえることはなく、そのまま嬉々としながらサラダを食べ始めた。

 

え、いや、フォークの有無を訊いたわけじゃ──

 

そんな言葉も笑顔でサラダを頬張る嫁を見ると引っ込んでしまい、仕方なくベジファーストを無視しドリアから食べ始める。

しかし、やはり小エビのサラダを食べたい。そもそもこれも目をキラキラさせた嫁が「ねえ、これ美味しそうじゃない? みんなで食べよう」と注文したシロモノ。しかも横で美味しそうな顔でサラダを頬張っていたら、そりゃ食べたくなるのは当然のこと。

 

「……ねえ、フォークもらっていい?」

「え!? 渡してなかったっけ! ……あ、それでさっきフォークのこと訊いたの!?」

 

気づいていなかった。

 

「いや聞いて! さっき訊かれたときは、スプーンでサラダ取り分けてた私への疑問なのかと思ってて!」

 

言い分はわかる。確かに向こうの立場ならそう思うかもしれない。これは仕方ない。

別に呆れもしないし、怒りもしない。

沸き上がる感情はただひとつ。

 

「そんなことある?w」

と笑う。お互いに。

 

そんな俺たちのやり取りを見て、僕の両親も笑う。

くだらなくて、しょーもないやり取りが、そしてそれに笑えることが。

どうしようもなく幸せだ。